第13章 【影】
* * * *
『不完全な存在』の私から、足元から、光の粒が溢れていた。
影の時よりは、すごく遅いけれど、消失の時は迫っている。
気持ちよさそうに眠っている、ジャーファルの右頬に手を当てて、涙を落とす。
頬に落ちた雫に気づき、彼はスゥ…と目を開けた。
もう二度と離さない、そう、再び心に誓った彼の目に、私はどう映っただろうか。
どれほど、残酷に、映っただろうか…。
絶望的な表情をして、消えていく私を見ながら、静かに涙を流す。
そして、引き寄せられて、抱きしめられた。
「シェリル…っ、逝かないで、シェリルっ!!」
(私…、充分、幸せだわ)
愛しい人が、私の名前を、何度も、呪文のように呼んで。
キツく、強く、痛いくらいに抱きしめてくれて。
たくさんの感情を吐き出すのを我慢して、声を押し殺して、泣いている。
こんなに…。
こんなに、幸せな夜は、ない…。
(でも…っ)
でも、描いていた理想が、未来が、…私に後悔ばかりを抱かせる。
きっと、彼も同じ。
消失が始まった両手で、最後にギュッと彼を『抱きしめ返した』。
「ジャーファル。私、幸せだったわ。あなたに出会えて。あなたを愛して、本当に…」
心残りだった、伝えられなかった言葉を、一気に詰め込み、想いを吐き出す。
う…あぁっ、と、彼は声を上げた。
「悲しくても、『後追い』しちゃダメよ、死なないで。私は、死んでもあんたの傍にいるわ、絶対。…泣かないでよ、笑ってよ…っ!!」
「…シェリル、こっちに来てください」
彼は私の腕を引き、窓辺に立たせ、机から小さな箱を取り出した。