第16章 縮まる距離
ピンポーン。
あきらが散らかしたおもちゃを片付けてたら、太輔くんが来た。
あ:「ママぁ、誰かきたよ~?出ても良い?」
淳子:「待って!待って!」
叫んだのも虚しく、あきらがドアを開けた。
あ:「太ちゃん!ママぁ!太ちゃんだよ~!」
あきらのあまりに大きな声に慌てて玄関へ走った。
太輔くんもびっくりしたみたいで、慌てて入ってドアを締めた。
太輔くん…
太:「おはよー。こんな朝早くにごめんね」
笑いながらあきらを抱き上げてくれた。
淳子:「おはよー。大丈夫。起きて一暴れしてらしたから♪散らかってるけど、どうぞ…」
ドキドキが半端なくて、上手く笑えてるか心配だった。
あ:「太ちゃん!何して遊ぶ?」
下ろしてもらったあきらは、おもちゃをたくさん引っ張り出してきて、目を輝かせながら太輔くんに飛び付いている。
太:「あきらくんは?何が良い?」
優しくあきらの頭に手を置いて、カーペットに座った。
淳子:「太輔くん、コーヒー?朝ごはんは?一緒に食べる?」
太:「あ、ごめん。朝はあんまり食べないんだ。コーヒーもらえるかな?」
太輔くんがこっちを見た。慌てて視線を手元に戻す。ヤバッ!感じ悪!
案の定、太輔くんがあきらにちょっと待っててと言ったのが聞こえた。
キッチンの入り口に片手を壁につけて立った太輔くんは、満開に怒ってる。
見なくてもシルエットと、雰囲気でわかった。
太:「ねぇ、今の何?」
低い声でそう言うと、1歩キッチンに入って来た。
答えられずに居ると、傍まで来て何も言わずに立ってる。
心臓の音が太輔くんに聴こえてしまうんじゃないかと思うぐらいにドキドキしてる。
淳子:「ごめんなさい。ちょっと目にゴミが入ったみたいで、痛くて…」
なんとかそれだけ言うと、フライパンを火に掛けた。
太:「どれ?」
太輔くんは、私の手を掴んでコンロの火を消して、私の顔を自分に向けて目を覗き込んだ。
太輔くんの顔がまた近い!
顔から火が出るぐらいに紅くなってきたのが、自分でも分かる。
体温が一気に上がった気がした。
太輔くんは何も言わずにじっと私の目を見てる。
ふいに目が逸らされて、
太:「大丈夫みたいだね。良かった」
そう言って、あきらと遊び始めた。
上手く誤魔化せたかな…