第6章 余韻
思わず、手を差し出した俺に、優しく笑って手を重ねた淳子さん。
離したくなくて、ずっと繋いでた。嫌がってる様子もなくて、安心した。
ベンチに座って話してたら、おばちゃんなんて気にしてまた言うから、キスしてやった。
繋いだ手の温もりを、たくさんくれた笑顔を、もう今日が終わってしまうから、忘れないように、胸に刻みたかった。もう、会えない。
貴女の帰る場所は俺の胸じゃない…
スタッフが集まってる。そろそろ時間だ。
淳子さんは俺のすぐ後ろをずっと歩いてる。
何も言わずに。
横:「太輔~!そろそろ行くよ~!」
渉がこっちに手を振ってる。
玉森も、一緒だ。
横:「もぅ、俺らの相手は帰ったよ。後は太輔んとこだけ」
玉:「淳子さん!今日はありがとね。次は俺に当たってね♪」
淳子:「イヤイヤ、今日1日で、一生分ドキドキしたから、もうええわ。心臓に悪いです」
横:「あはは。太輔何したの?」
渉と玉森は車の方に歩いて行く。
あきらくんを淳子さんが抱きあげる。
ぐっすりと眠ってるようで、俺から淳子さんに変わっても起きない。
太:「さっき、ごめん。不意打ちみたいに」
淳子:「ううん。びっくりしただけ。キス、してくれてありがとう」
顔を赤くしながら、俯いた。
淳子:「太輔くん、うちからのお願い。ずっとテレビに映ってて。うち、ずっと見てるから。ずっと応援してるから。頑張って輝いてて…」
そう言って今日1番の笑顔で手を振った。
淳子:「今日はありがとう。バイバイ」
太:「…」
淳子:「…バイバイ」
太:「…ん。わかった。じゃぁね。あきらくんの写真送ってね」
淳子 :「うん」
俺は帰りの車に乗った。
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太輔くんを見送って、自分の車に戻ってあきらをチャイルドシートに寝かせて、家に帰る。
帰りの運転中、太輔くんの甘い歌声が流れる。ついさっきまで一緒に居たのが夢のようで、一緒に居た、確かな証拠は唇の柔らかい感触と、繋いでいた手の温もりだけだった。やっぱり、写真は一緒に撮れなかったから…
もうしばらく、家に着くまで、夢の時間を…