第32章 抱き締めたい
淳子と別れてから俺は仕事にのめり込んだ。少しぐらい無理なスケジュールもこなした。幸い、ほんとに忙しくなったのも手伝ってくれた。
彼女が俺のベットで寝た事がなくて良かった。
この部屋には彼女の痕跡がない。
彼女の手も声も、言葉や表情も何1つ思い出にならなくて…
会いたさが募るばかりで…
抱き締めたい…彼女を思い切り、抱き締めたい…
もう、叶わない望みだけど…
北山から、大倉くんが本気だと聞いた。
あの時の宣言通り、俺が彼女を泣かせたのを北山から聞いたらしい。
北山は何度も謝ってくれたけど、北山が謝る理由なんてどこにもない。泣かせたのは俺だから…
最後の彼女からの電話は荷物の事で、今も耳に残ってる…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大:「淳子さん♪あきらくん♪」
最近、よく来るようになった大倉くんは、あきらと遊んでくれるし、料理もしてくれる。
大:「あきらくん、寝てしもた…」
淳子:「お疲れ様♪ありがとう…」
あきらをベットに運んで、リビングに戻ると、大倉くんが帰る準備をしていた。
淳子:「いつもごめんね?ありがとう…」
大:「…」
淳子:「今度なんかちゃんとお礼するわ!」
淳子:「大倉くん?」
ものすごく真剣な顔で近付いてくる。
なんとなく恐くて後ずさると、壁に当たって、これ以上下がれない。大倉くんは、近付いてくる。
そっと私の顔の横に肘をついた大倉くんは、
大:「お礼より、返事が聞きたい…」
そう言って、私の顎を持ち上げてキスしようとした。
大倉くんのキレイな顔が近付いてくる。
思わず、ギュッと目をつむると、一筋の涙が流れた。
大倉くんも気が付いて、唇がふれるかふれないかのところで止まってくれた。
大:「泣くほどオレとキスするんイヤ?」
涙はどんどん溢れて来て
淳子:「ごめん…ごめんなさい…」
そう言うのが精一杯だった…