第1章 狢
目が覚めた銀時の目に映ったのは華やかな装飾が施された高い天井だった。ドラマチックホワイトの大理石で敷き詰められたそれは、きらびやかなネオンをあちこちと覗かせている。部屋を満たすその照明は全体的に桃色がかっており、どこか妖艶な雰囲気を作り出していた。
何故、このような場所にいるのだろうか。
酷く怠さの残る重たい頭で銀時は記憶を探ろうとする。しかし覚えているのは長谷川泰三の紹介で訪れたイメクラで酒を飲む所までである。自分の指名でナース服を着たキャバ嬢に薦められてビールを三杯は飲んだ。そこまでは鮮明に覚えている。だが可笑しい。何故かその後の記憶がふつりと消えていた。
酒癖が悪く、記憶を飛ばして暴れる事もある銀時だが、さすがにビール三杯程度で意識が潰れるほど弱くはなかった筈だ。普段なら飲み過ぎというくらい飲み過ぎて、二日酔いの怠さに耐えられずに道ばたで吐き戻すのが常である。だが今の気怠さは酒による物ではなく、どちらかと言えば日曜日の昼過ぎまで寝過ごした時のような億劫さを感じる。一体、自分の身に何が起きたのだろうか。
「あら、おはよう。」
不意に、銀時の横から女の声が掛かる。声の主を探るために顔を横に傾ければ、そこにはイメクラで銀時を接待していた女が居た。網タイツやナースハット、聴診器といった小道具は外されていて、ケバかった化粧も全て落とされていたが、ナース服は未だ着ている。わざと肌けさせてる胸元も相変わらず際どい所まで開いていた。タイツを脱いだ分、剥き出しになった肌の面積も増え、より色気のある姿となっている。一瞬、この女を無意識に抱いてしまったのかと焦ったが、どちらも服を脱いだ形跡はなかったので安堵する。
銀時の意識が戻った事を確認したその女は、そのまま銀時が横たわっているベッドに腰をかけた。ギシッ、とベッドスプリングが軋みながら沈む。女に面と向かって顔を合わせようと銀時も己の体を持ち上げようとしたが、一向に力が入らない。不自然に抗えない脱力感で、女が銀時に何か仕掛けた事に気付いた。