第8章 肝試し*ロー
「やっぱり、予想度通り柔らかいな」
何が起きたのかわからずに少しだけ開いた口に何かがねじ込まれる。
「んっ…んん⁈」
「……っは…止まんねぇ…」
初めてだというのに容赦なくキスの雨を降り注ぐトラファルガー。
「ちょっ、も、やめ、ンッ」
「っは、はぁっ…ん…っ」
息も絶え絶えになったところでやっと唇が離れた。
力が抜けて、座り込んでしまった。するとトラファルガーも隣に座る。
ぼーっとする頭。ドクドクしている心臓。何もかも初めてだった。
「…初めてだ」
「キスか?」
「全部だ!告白もきっ…キスも…とにかく何なんだお前‼︎」
「ロー、って言ってみろ」
「はぁ⁈」
「なんだ言えねぇのか」
「言えるよ‼︎ロー!」
「もっと普通に」
「…ロー」
「…イイ」
「ふざけんな‼︎」
チョップを喰らわそうとした手が掴まれる。
トラファルガーの整った顔が月光に照らされ、綺麗だと思ってしまった自分を殴りたい。だがイケメンなのは否めないのだ。
「…お前の返事はいつまでも待ってやる」
「な、上から目線な」
「当たり前だ」
そう言ってにっと笑った顔に不覚にもときめいてしまう。
「………かっ、考えとく……………」
「ちなみに好き以外受け付けねぇ」
「お前その優秀な頭に『理不尽』って言葉がインプットされてないなんて言わせないぞ」
「わりぃ、今忘れた」
やはりこいつの笑顔(?)には勝てないらしく、どうも心臓が落ち着かない。
ふい、と顔を反らすと肩を寄せられる。
「そろそろ戻るか?」
「……あと少し、このままがいい」
首をこてんとトラファルガーの方に寄りかからせ、湖の水面に映る月を眺める。
「トラファルガー、知ってるかもしれないが、ある文豪が、I love youを月が綺麗ですねと訳したらしい」
「ほう?」
「トラファルガー、月が、綺麗ですね」
翌年から、肝試しである湖に男女で辿り着くと、恋が成就するとか噂が流れたとさ。