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【家庭教ヒットマンりボーン】だって、かっこいいもん。

第1章 無頓着な姉


それはまさに、偶然なのだ。いや、今になって偶然とか言ってられないかもしれない。

必然に起きたのかもしれない。



今、私の手の中にあるのは『風紀』と刺繍された腕章。


これだけでもう圧迫感がやばい。


そして私の前を、ゆったりと歩く後ろ姿は誰もが恐れるこの中学のトップのお方で、


風紀委員長である。


そう、『雲雀恭弥』だ。



おそらく、彼が落としたであろうこの腕章。

絶対他の人だったら拾わないと思う。

でも、彼もこれがないと困るのじゃないか。そればかりを、廊下に突っ立ったまま考えていた。



「…あ、あのっ!」


「…ん?」


おもわず声をかけてしまった自分を呪いたい。

こんなの他の誰かに頼んだらよかった。


「これ、落としましたよ…」


語尾がしおしおと小さくなるのが、自分でも分かる。


緊張で、冷や汗をかく私の気など知らぬ彼は、細く切れ長の目を私の手元に向ける。


「ああ、ありがとう」


短く言葉を告げて、腕章に腕を伸ばした。


「あ…」


言葉をもらしたのに気づき、はっと口をつぐんだ。


「まだ何かあるの?」


冷静にそう吐き捨てる彼は、歩き出そうとしていた足を止め、私の方に首を捻る。


「あ、いえ、あのっそこほつれてるなぁ…と」



私は小さく左の二の腕部分を指差した。

安全ピンかなにかで引っ掻けたのか、少しほつれていた。



「ああ、別に気にしないで」


「あ、あのっ…な、直しましょうか?」



すぐですよ。と小さく付け加える。


どうしてこんなに怖いと思う人に尽くそうとするのか、私にもわからなかった。




ふと、目の前に学ランが写った。

「なに?直してくれるんでしょ」


「あ、はい」


鞄から裁縫道具をだす。
今日の授業でちょうど裁縫をやったため、その道具を持ってきていた。


あー、よかった。


糸切りで、チョキンとほつれた糸を切る。

「ど、どうぞ…」


恐る恐る渡すと、ん、と声をもらしそれを受け取った。


「ありがとう。気をつけて」


はっ、と顔をあげると普段から想像のつかないような顔がそこにあった。


いつもの仏教面とは違い、薄く、それでも優しく彼は微笑んでいた。


そういう表情、できたんだ…


彼は、案外怖くないのかもしれない。今日は疲れたな。
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