Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
似鳥はひとり部屋にいた。凛は30分ほど前に携帯電話を持ってどこかへ行ってしまってまだ戻らない。
教科書やら辞書やら物が山積みになっている自分の机と、余分な物が全くない整頓された凛の机を視界の端に捉えながら似鳥はこんなことを思っていた。
(僕もいつか、凛先輩といろんな勝負が出来るようなりたい...!)
〝いろんな勝負〟とは水泳に限らない。
先日鮫柄水泳部で行った八幡様参り...カニ祭りを思い起こした。
そこでたまたま岩鳶水泳部の人達に会った。
その中にはもちろん凛の元チームメイトでありライバルでもある七瀬遙もいた。
そこで遙と凛はほぼ同着だった県大会の決着をつけようと言い出し、カニ祭りで本人たちからすれば熱い死闘を繰り広げていた。
正直に言うと、似鳥は遙が羨ましかった。
凛と同じラインに立ち同じステージでしのぎを削り合う関係が。
たとえ水泳以外では勝負の方向性がどこかずれていても。
そこで、凛がいないことをいいことに似鳥はこっそり早脱ぎの練習をしていた。
あの日遙と凛がしたたくさんの勝負の中の1つだ。
これが結構難しくて、まだまだ凛のようにスタイリッシュにはいかない。
ベルトを外す速度が尋常じゃない凛には到底及ばない。
もっと練習しなくてはと似鳥は軽いため息をつく。
「ばっ、ばっ、...よいしょ...ほいっ...えいっ...」
するすると衣服を脱いでいく。
残るはあと1枚...。
「はーっ!!」
最後の1枚を体から取り去り、似鳥は声をあげた。
似鳥が最後の1枚を取り去るのとほぼ同時に部屋のドアが開けられた。
「な、なにやってんだ似鳥...?」
開けられた扉には、恐らく、いや確実になにか勘違いしている凛の姿。
似鳥はまるで、シャワー中に誤って男子に扉を開けられた女子のごとく顔を真っ赤にしながら脱いだ服をかき集めて叫んだ。
「みっ...!見ないでくださいぃ...っ!!」
「いっ、いいからとにかくさっさと服を着ろっ!」
「はっはいぃ...っ!」
似鳥のことを直視しないようにしながら凛は自分のベッドに腰をおろす。
部活や風呂などで裸とは慣れっこだが、部屋での裸は非日常的過ぎて凛は戸惑いを隠せていなかった。
裸といっても全裸ではなく下着はつけていたが。