Destination Beside Precious
第16章 13.Sunny Then Rainy ※
しかし凛にはある疑問が浮かぶ。
夏貴の当たりが強いのは自分に対してのみで、人見知りとはいえ最低限の礼儀やマナーは弁えている。
(度が過ぎた潔癖か…)
同室の、しかも夏貴からしたら先輩にあたるこの2年がここまで夏貴との同室を拒む理由。考えられるとしたら、それくらいしか浮かばなかった。
しかし夏貴が潔癖症だという話は汐から聞いたことがない。
「なんでそんなに夏貴と同室が嫌なんだ?」
騒ぎをあまり大きくしないよう小声で凛は2年部員に訊いた。
壁が薄いのか、廊下での会話は割と部屋まで筒抜けになっていることが多い。
「見れば分かりますよぅ…」
情けない声で凛に縋りつきながら、彼は部屋の扉を開ける。
部屋に入った凛はある物を目撃し、驚いて声を上げた。
「なっ…!?なんだこれ!?」
丸い機械のようなものが独特な機動音を発しながら、凛の足にぶつかって方向転換した。
確かこれは、榊宮家で何台も見かけたことがある〝あれ〟だ。
「ああ、凛さんお疲れ様です。なにって、ロボット掃除機です。見ればわかるじゃないですか」
荷解きをしていた夏貴が、何言ってんだとでも言いたそうに振り返った。
部屋中を動き回りながら掃除を続けるロボットを見ながら夏貴に訊く。
「いや、そうだけどよ…。どうしたんだこれ?」
「僕の部屋で使ってたものをそのまま持ってきました。僕達が部屋を空けている間に掃除してくれるから、先輩も僕も部屋で快適に過ごせるでしょう?」
なるほど、夏貴なりに同室の先輩を気遣って持ってきたという訳か。
そうであれば、同室を全力で拒否されている夏貴が不憫だ。
「…お前はロボット掃除機にびびってんのか?」
「違います!あれですあれ…!」
半ば呆れながら凛は2年部員に訊いた。しかし違うようだ。
彼は大きく首を振りながら部屋の端の方に置いてあった未整理の夏貴の私物を示した。
あれ、と指された先にはあったのは壁に立てかけられた電子ピアノと荷物。
「ああ、ピアノはヘッドホン接続出来るんで騒音は出ません。安心してください」
「なんでピアノなんて持ってきてんだよ…」
「寮には音楽室が無いじゃないですか」
夏貴の趣味はピアノを弾くこと。
趣味に口を挟むつもりのない凛はそれ以上何も言わなかった。
しかし凛はピアノの傍の荷物に目を落とした時、部員がここまで同室を嫌がる理由を理解し納得した。