Destination Beside Precious
第4章 2.Only You Are Seen
「こうやってふたりで街に来るのも久しぶりだね、ハル」
「そうだな」
水泳部を創ってからというもの、自然と遙と真琴と渚と怜の4人で行動することが多くなっていた。
しかしこの日は遙と真琴は2人で街に来ていた。
駅前のショッピングモールで開催中の全国ゆるキャラ市に行きたそうにしていた遙を察して真琴が誘ったのがきっかけだった。
「ここ、あんまり来ないから迷っちゃいそうだね」
「あそこに案内板があるぞ」
遙が示した先には確かに案内板があった。
ボタンを押すと音声案内をしてくれる、というバリアフリーなものだった。
「えっと?展示・イベントホールだっけ?」
「ここじゃないか?」
ふたりは案内板に目を落とす。
今いるのが1階で、イベントが開催されている場所は4階だった。
少し行ったところにあるエレベーターに乗って4階行けばすぐらしい。
「そこだね。じゃあ行こうか」
「ああ」
全国ゆるキャラ市。
岩鳶城のゆるキャラのイワトビちゃんはいるだろうか。
もしいたら遙は目を輝かせるだろう。
目を輝かせる遙を思うと微笑ましくて自然とと真琴の頬がゆるむ。
「どこもマロンフェアばっかりだね」
「秋だからな」
9月の終わり。夏が終わり秋がやってきた。
2週間後には秋祭りとして岩鳶町が開催するカニ祭りもある。
それは同時に屋外プールの岩鳶高校水泳部には厳しい季節がやってくるということでもあった。
「あっ、ここのチョコレートケーキ美味しそう...」
真琴は思わず足を止めてしまう。
どこもマロンフェアばかりだと思っていたが、1軒だけチョコレートケーキを推しているお店を発見したのだ。
「なにしてる、行くぞ」
足を止めた真琴を遙は急かした。
「ハルー、待ってよー...って、あれ?」
「?どうした?」
なにかが真琴の目についた。
再び足を止める。今度は遙も立ち止まった。
「ねえ、あれって凛じゃない?」
「凛?」