Destination Beside Precious
第15章 12.Masked Family
「きっと、そうだ。…愛されたかっただけなのに、なんで汐がこんなにつらくて寂しい思いをしなくちゃならねぇんだよ…」
〝愛されたかっただけなのに〟
「あい…され…、…」
汐の声が途切れた。
次の瞬間、息をすることさえ忘れた。
凛の涙が止まった。目が離せなかった。
朝焼けと同じ、ローライドガーネットが濡れて煌めいた。
ゆっくりと瞬きをした汐の瞳から、水晶のように澄んだ大粒の涙がこぼれ、頬に光る軌跡を描いて落ちた。
その後は、まるで雨の降り始めのように。
ひとしずく、ふたしずくと、これまで殺した感情のなきがらをすべて雪がんと涙が次々とこぼれ落ちた。
「あれ、あたし…、え、なに、これ…っ、止まらない…っ」
初めて目にする汐の涙に、凛はある素直な気持ちを抱いた。
こんな時にこんなことが頭をよぎるのは不謹慎かもしれない。
しかし思わずにはいられなかった。
これ以上に綺麗で価値のある涙は無いだろうと思ってしまった。
幻かと見紛うほど儚く、触れたら壊れてしまいそうだった。
だってそれは、今まで見たどんな涙よりも、とても美しかったから。
「汐」
「りんくん…」
ぼろぼろと涙を流す汐に優しく笑いかけ、悲しみごと包み込むようにそっと抱きしめ頭を撫でた。
「やっと泣いたな…」
優しい、優しい、慈しみに満ちた凛の声。
堰を切ったように溢れ出した涙はもう止まらなかった。
「もっと、あたしを見て…!」
凛の胸の中で、汐はこれまでずっと内に閉じ込めていた思いを叫んだ。
「あたし…、もっと…!愛されたかった…っ!!」
凛に縋りまるで小さな子どものように顔を歪めて泣きじゃくる汐。
きっと、昔からこんな風に泣きたかったのだろう。
凛が見誤っていたこと。
凛はずっと汐のことを強い人だと思っていた。
本当に強い人は優しい人だ。汐は優しさという強さを持っている。
そしてもうひとつ。
本当に強い人は誰かに頼ることが出来る人だ。汐はその強さは持っていなかった。
心が孤独では頑張るのにも限界があると、心の居場所を凛に与えてくれたのは汐だった。
今度は凛が汐に与える番だ。人はそうやって支え合って強くなっていく。
自分はひとりぼっちだなんて、そんな寂しいことはもう言わないで欲しい。
雨上がりの空が晴れて虹が架かるように、ひとしきり泣いた後にはまた晴れやかな笑顔を見せて欲しい。