Destination Beside Precious
第13章 10-2.Don't Leave One Alone Ⅱ※
「ん…」
朝を告げる小鳥のさえずる声と昇った陽のまぶしさに汐は目を覚ました。
そうだ、昨晩はピロートークもそこそこにふたりとも倒れるように眠りについたのだった。
それでも凛は汐をぎゅっと抱きしめて離さなかった。
ひと晩中腕の中で眠っていて、起きてなお幸せな温もりを肌で感じた。
(子どもみたい…)
瞳の先には、まだ眠る凛。
気持ちよさそうに寝ている凛に男ではなく男の子を感じ、可愛らしく思えた。
形のいい唇、高い鼻とすっと通った鼻筋、長いまつ毛で縁どられた目元と凛々しい眉、つくづく整った美形だと汐はぼんやりと考える。
そんな美形の凛の心地良さそうに寝息を立てる様子が、なんだか子どもみたいで汐は微笑ましい気分になる。
(寝顔、可愛い…)
昨晩、激しく情を交わしあっていた時の顔とは似ても似つかないくらい穏やかな顔をしていた。
汐はひとり表情を柔らかくする。
人は、寝ている時が一番無防備だと云う。
そんな素の姿である寝顔を一番近くで見れる女の子は自分だけだと思うと、小さな独占欲をくすぐられる。
軽く身じろぐと、下半身が甘ったるい重さに包まれていることに気づく。
昨夜は、本当に羞恥心という言葉を頭の中から消していた。今までにないくらい激しく互いを求めあった。
熱くて激しい情交の一部始終を思い出すと、ゆっくりと顔が紅潮していく。
鮮明に刻み込まれた凛の激しい愛は、腰の重さが物語る。
「んー…しおー…」
むにゃむにゃと寝言で自分の名を呼ぶ凛。
寝ていても自分のことを考えてくれているのかな、と思うとふわふわとした幸せが胸をあたたかく包み込む。
起こさないようにそっと凛の頬に触れると、語りかけるように呟いた。少し、寂しげな笑顔を添えて。
「凛くん、好きだよ。…大好き。…ずっと、あたしの傍に…あたしの味方でいてね…?」
窓の外では枝垂れ桜が麗らかな春の陽のもと、暖かな風に揺れる。
時に花の香を漂わせながら、時に儚く花弁を散らせながら。
桜はそうやって春を生きていく。
花は美しくて少し寂しい。
そんな花のような笑顔を浮かべた汐。
その手を、大きくてあたたかな手が包み込んだ。
「…約束する」
まさか返事がくるなんて思っていなかった汐は驚いて目を見開く。
そこには、春の陽射しのようにあたたかな笑顔で汐を見つめる凛。