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Destination Beside Precious

第10章 8.Don't Forget Mydear



冷えきり澄みきった空気同様、清々しい晴天の元、凛と汐は海子の墓の前にいた。

立ち上る線香の芳しいかおりと共にふたりは瞑目していた。


(あたしはもう大丈夫だよ)

甦るのは、夢の中で海子の遺した言葉、笑顔。

記憶の中の海子がいた日々。
温かな笑顔に溢れた日々。
あの時は海子が自分を包み込んでいてくれていた。
海子は死んでしまったけれど、心の中で生きている。
海子がいたから、自分がある。
今も、昔も、これからも、それは変わらない。

汐が笑顔に満ちた幸せな人生を送ることが願いだと海子は言った。
罪を償うのなら、海子の願いを叶えることだと思う。

自責の念という足枷が海子の言葉で外れた。
これで前に進むことが出来る。
汐の中で止まっていた、海子との時を刻む時計が4年という歳月を経て動き始めた。


(ありがとう)

澄んだ光を宿したローライドガーネットの瞳が青く磨かれた海子の墓を見つめた。

「今度は璃保と、彼氏くんと、あたしたちで海子に会いに来るね」

青空同様、晴れやかな笑顔で汐はそう言った。
汐と似た雰囲気を持つ海子が笑い返してくれ気がする。



「今日供えた花はなんて言う花なんだ?」
霊園を後にしながら凛は汐に訊ねた。
花屋の女性が遅めの花だと言っていた。

乾いた風がふたりの髪を踊らせる。

墓前に備えられた花も、その風を受けて薄紫の花弁を柔く揺らす。

「えっとね、あの花は―…」

シオン。

花言葉は、〝追憶〟。


〝あなたを忘れない〟



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