Destination Beside Precious
第7章 5.Illuminate The Darkness
汐のマフラーをそっと外す。
そして、汐の手の中にあるそれを優しく巻いてやる。
「汐、お前俺のマフラーみて可愛いとか、あたしも欲しいとか言ってただろ?だから、その、…お揃い、だ」
以前の何気ない日常会話を思いだす。
汐はそういうつもりで言ったわけではないとわかりきっているものの、これが一番いいと思った。
カップルでお揃いのものをつける。我ながらベタだと凛の語尾が少しだけすぼむ。
凛からのクリスマスプレゼントはバーバリーチェック柄のマフラーだった。
「俺のは4年前のものだからまったく同じものはなかったんだ。だから同じブランドのレディースラインで一番近いデザインのものにした」
「だってこれ、すごいブランド品だよ…?…高かったでしょ…」
「ばぁか。値段じゃねーよ。俺がお揃いのマフラーにしたかっただけだ」
実は以前から休日を使ってこっそりとプールの監視員や小学生の水泳大会のスタッフのアルバイトをして貯金をしていた。
理由はひとつ。汐とのクリスマスデートの為だ。
本当はクリスマスだし、特別なデートをしたかったのだが、当日は汐が学校だったから不可能になってしまった。
凝ったデートが出来ないのなら、せめてプレゼントは少し豪華なものにしようと凛なりに考えた結果だった。
「ほんとに嬉しい…。凛くんありがとう…!」
「ああ。どういたしまして」
そう言って抱きしめる。
汐の笑顔を見ていると、多少高くても良い物を贈ってよかったと思う。
この笑顔は何にも換えられない。
「あたしもプレゼント用意したんだけどね、今日荷物多くて割れそうで怖かったから持ってこなかったの。ごめんね。次会うときに渡すね」
「ああ。さんきゅ。…なあ汐」
「ん?」
自分の肩口あたりにある汐の頭を撫でる。そのまま耳に唇を寄せた。
「俺、欲しいものがあるんだ」
「なに?あたしがあげれるものだったら何でもあげるよ」
呼吸ひとつの間の後、囁くように凛の唇が動く。
「汐…お前が欲しい」
え、と喉の奥から洩れたような声と共に腕の中にいる汐が顔を上げる。
その愛らしい頬がみるみる紅潮する。
「汐の大切な思い出のひとつを、俺にくれないか…?」
お互い言葉の意図を汲み取れない歳ではない。
抱きしめる腕に力をこめる。
どくん、どくん、と脈打つ胸の音が汐の耳に届きそうだ。
汐の〝初めて〟を、俺にください。