第10章 密室インターフェース
『ねえ誓理(ちかり)ちゃん。このお部屋、"勇希雄"って書いてあるけど、勇希雄って誰?』
誓理とは妹の名前。そして勇希雄(ゆきお)とは僕の名前。
四人兄弟なので、部屋を間違えないようにと昔から部屋の扉にネームプレートを掛けている。
その子はそのネームプレートを見て、僕の存在が気になったと考えられる。
『え…。大した事じゃないよ。早く行こう?』
『誓理ちゃんの弟、勇希雄くんって名前だっけ?』
『たしか、弟の名前は太陽くんと正義くんだったでしょ?勇希雄って誰なの?』
『その人は…えと…、…いとこだよ。いとこのお兄さんが泊まりに来てるの。』
『へえ、そうなんだ!何歳?どんな人!?』
『ぇ…知らない…。高3じゃないかな。』
『高校生なんだ!!いいなぁ、私の親戚は年下ばっかりだからそういうの羨ましい!』
『へ、へぇ…。そうなんだ…。その人、明日には帰るから、皆は覚えてなくていいんだよ?』
『…どうしたの?誓理ちゃん。』
『いつもの誓理ちゃんじゃないよ?何か…へん。』
『……ねぇもういいでしょ?早く部屋に行こうよ。奈々ちゃんと美緒ちゃんとね、話したい事いっぱいあるんだ、私。』
『…分かった!行こう美緒ちゃん。』
『うん、ゴメンね誓理ちゃん。たくさんお話ししよー!』
そう言って、彼女たちの会話はこれ以降聞き取れなかった。
妹・誓理の態度や声からして、僕の事をそうとう嫌っているらしい。
そうでなければ、実の兄の存在を友達に一切教えないのはおかしい。
誓理にとって、不登校でゲーマーの僕なんか家族の恥でしかないのだ。
不登校になってから、誓理に無視されているなとは薄々気付いていた。
食事時も僕の事に気が付いていないような素振りをするようになっていた。僕(兄)という存在(恥)を誓理は頭の中から、そして眼中から消し去ろうとしていた。
誓理は僕を罵ることはせず、ただ静かに自分の過ごしやすさを求めた。
僕に罪悪感は残るが、誓理がこれでいいなら僕だってこのままでいい。
元に戻れない僕が悪いのだ。天罰に違いない。
一度入ったら抜け出せない感覚に、僕は足を縫い付けた状態。
学校に通いたいなんて思えなかった。