第9章 囁きアドバイザー
あの日から…、結希さんに会った夜から3日ほどたった休日。
俺はいつも通り部活の朝練をすませ、練習用のユニフォームを着て、家に帰っていた。
「おつー、練習どうよ龍也!楽しんでる?」
「与作(よさく)先輩!お疲れ様です。毎日楽しくやってますよ。」
帰り道、ばったり会って話しかけてきたのは私服姿の元野球部の先輩。与作 次郎(よさくじろう)さんだ。
彼は初宮中学の三年生で元野球部。すでに引退はしているが、初宮野球部の名キャッチャーで学校ではちょっとした人気者だった。
「与作さんは此処でどうしたんですか?塾帰りとかですか?」
「んんー。ノンノン!正解は花田くんの買い出し待ちでしたー!」
このようにお調子者の与作さんだが、野球になると誰よりもかける思いは高く、メンバーからの信頼も熱かった。
「待たせたなー。って、お?千歳じゃないか!練習帰りか。頑張ってるな。」
「ご無沙汰してます、花田さん。レギュラーも受け継げて一層力が入ってますよ。」
「そうか。頼もしい後輩を持ったもんだな、次郎。県大会のベスト4も夢じゃないかもな!」
「俺たちが邪魔だったみたいな言い方ですねー、花田くん?」
「そんなつもりじゃないさ悪かったよ。」
続いて私服でやってきたのは、同じくすでに引退した三年生の元野球部、花田一夜(はなだ かずや)さんだ。
初宮野球部の元エース・ピッチャーで、与作さんとバッテリーを組んで、野球部の絶対的コンビだった。
「ほんとに仲いいですよね。お二人は。三年生が引退されて、部員も7人だけ。楽しいですけど…凄く寂しいです。」
「っ!…悲しい顔すんなって。龍也達が率先してやって行かなきゃダメだろ?頑張れって!お前キャプテンになるんだろう?」
「そうだぞ、千歳。試合には出れないが好きな野球ができるんだ。楽しいに越したことはない。…それとも、千歳は野球が嫌いか?」
野球が好きか嫌いかだって?そんなの決まっているじゃないですか。
青春真っ只中の中学生が野球に打ち込むなら、答えは一つしかない。
「い、いえ。俺は野球が大好きです…!」