第17章 ありがとう
「優子さん」
ひとりでダンスの衣装を縫っていた私は、声をかけられて顔を上げる。
雅樹くんだ。
「……」
「飲む?」
雅樹くんが、イチゴオレを私に差し出した。
「うん」
私は頷いて、イチゴオレを受け取る。
彼は隣の椅子に腰掛けて、自分の分のイチゴオレにストローを刺す。
私もストローを刺して、イチゴオレを飲む。
……。
「優子さん、毎日残って準備手伝って偉いですね」
あ、ほめられた。
私はちょっと考えて答える。
「当日は放送部の活動が忙しくてあまり手伝えないし、準備だけでもと思って…」
「そっか」
「雅樹くんは? 勉強の息抜き…?」
私は尋ねてみる。
「僕は…」
「うん」
「僕は優子さんが毎日残ってるから残ってる」
「……」
何を言えばいいのかわからなくなって、私は黙ってイチゴオレを飲んだ。
彼も黙ってた。
私は飲み終わった紙パックをなんとなく眺める。
「捨ててきてあげようか?」
彼が手を差し出す。
「ありがとう」
私はお礼を言って、空の紙パックを彼に渡す。
ていうかその前に私、これをもらったお礼言ったっけ?
そもそも、もらってよかったのかな?
お金渡す?
「あの、えっと、雅樹くん」
立ち上がった彼を、私は呼び止める。
「うん?」
「私ね、雅樹くんと同じクラスになれてよかった」
私は彼に伝える。
彼はちょっと恥ずかしそうに微笑む。
そして言った。
「僕もです」