第5章 山合宿
真っ暗な中を2人はゆっくりと歩いていた。
桜は時折空を見上げ、外灯の近くを通りかかると視線を緑間に移していた。
一方の緑間は、桜とは逆の行動をしていた。
再び暗がりに差し掛かると、桜は思い切って口を開いた。
「あ、あの、緑間君・・・さっきは、1人で何、してたの・・・?」
静寂の中で、桜の声は暗闇に吸い込まれそうだった。
「ただの散歩なのだよ」
「そっか。同じだね」
声だけだが、うれしそうに答えたのが分かる。
再びゆっくりと歩く2人。
そんな中、消え入りそうな声で口を開いたのは緑間だった。
「ずっと気になっていたのだよ・・・」
「え?何・・・?」
桜は聞き返したが、緑間は黙りこくっていた。
「あ、キャンプ場に戻って来ちゃった」
再び緑間が口を開くのを待ちながら歩いていると、キャンプ場に着いてしまった。
「おやすみなのだよ」
ふいに繋いでいた手が離れ、背を向けて立ち去る緑間。
「あ、あの!」
桜は、無意識に緑間を呼び止めた。
無言で振り向く緑間。
「あの・・・」
桜は下を向いて口ごもった。呼び止めたはいいが、言葉が出てこない。
そんな桜を見かねた緑間は、
「言いたいことがあるならはっきり言うのだよ」
と、優しい口調で言った。
「明日も一緒に、散歩、したい、です・・・」
思い切ったはいいが、だんだん口ごもってしまう。
そんな桜を見てくすっと笑った緑間は、
「わかったのだよ。また明日」
そう言って宿に戻っていった。
「また、明日・・・」
暗闇に消え行く緑間の背中にそっと手を振った。
明日も会える、そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
テントに戻って横になっている時も、思い返すと顔が緩む桜。
「そういえば、緑間君がつぶやいてた言葉なんだったんだろ・・・何かが気になるって聞こえたけど・・・」
そんなことを考えながら、桜は眠りについた。