第3章 夏祭り
出店の並ぶ参道まで戻ってくると、人でごった返していた。
「うっわ、すげー人だな・・・」
3人は、人を掻き分けるように前に進む。
桜は、先頭を歩く一際背の高い緑間を目印に進んでいくが、
次第に距離が開いていく。
少し焦って、近くにいるはずの高尾の姿を探すが、すでに姿が見えない。
「え・・・高尾君?」
辺りを見回しても見つからない。
再び視線を緑間に戻したが、さらに距離が広がっていた。
ふと声をかけようかと思ったが、『嫌われているのかも』という不安がよぎる。
そうこうしている間に、緑間の姿はすっかり見えなくなってしまった。
「あ・・・」
2人と完全にはぐれてしまった瞬間、言いようの無い不安に襲われる桜。
人ごみに流され、一歩、一歩と足取りが重い。
気力なくふらふらと歩いていると、後ろから肩を掴まれた。
驚いて振り向くと、そこには焦った様子の緑間が立っていた。
「探したのだよ」
桜は黙って緑間を見上げた。
少しだけ上がった呼吸。眼鏡の奥の瞳は、普段と打って変わって優しさに満ちていた。
「ありがとう。探してくれて」
桜は、目尻に少しだけ涙を浮かべて微笑んだ。
「と、とりあえず参道を抜けるのだよ」
そう言うと緑間は、桜の手を取るとゆっくりと歩き出した。
桜の手をすっぽりと包み込む緑間の少しひんやりとした大きな手。
しっかりと手を繋いだまま、桜は緑間の後をついていった。