第3章 紅月【クロ月】
今夜月食があると、すれ違った女子高生が騒いでいるのを小耳に挟んだ。
部屋に帰るなり上着も脱がずにベランダに出て月を見上げる。
ちょっと楽しみにしてたなんてことは絶対にない。
見上げた月は、食べかけのビスケットのように欠けた月は、ほんのりと赤みを帯びていた。
夜は冷える。
最近は特に、夏から冬への転換期だ。
影山が鼻をすすっているのも気温の上下が激しいからだろう。
なんとかは風邪を引かないってよく言うじゃないか。
まったくどうでもいいことを考えながら、吸い込まれるように月に手を伸ばした。
夜空に向けた手のひらを欠けた月に重ねて、ぎゅっと握る。
月を手に入れたみたいだ。
僕が幼かったなら、そう言ってはしゃぐかもしれない。
それとも、僕はもっと大人びた子供だったっけ。
千切れた雲に隠れた月を手から離した。