第2章 炎天下【影日】
「ず、ずりいっ...って、思ってたんだ!」
なんとか言い訳を捻り出してぎゅっと目をつぶって言った。
「美味そうに食いやがるから、ずりいって、思って、羨ましいなあって思ってたんだ...」
日向の声に耳を傾ける影山の手に、溶けたチョコアイスがコーンをつたって落ちた。
「影山がっ、なんか...すっげえ色っぽくて、お前に舐められてるアイスが、ずりいっ、って思って...」
「は?」
「って、俺、何言って...!」
一気に赤く染まった頬で、言い訳は続く。
「あいや、だからつまり!アイスひと口くれってんっ、む」
熱を持った唇に、冷たい唇が押し当てられた。
駄目押しのようにぺろりと下唇を舐めてから離れるはじめてのそれに名残りを感じながら、ぼーっと影山を見上げる。
「満足か」
「っあ、え...?」
体は理解していても頭が追いつかなくて、言葉が出てこない。
呆然と見つめていると、影山はバツが悪いというように顔を背けて、アイスの最後の一口を放り込む。
咀嚼したものを飲み込んだ喉仏が上下した。
手の甲で唇を抑える影山の耳は赤い。
それはこの暑さのせいか、それとも。
「さっさと戻るぞ」
そう言って、影山はエナメルバッグに括り付けてあったタオルを日向に投げ渡した。
「な、なんだよ」
「んなアホ面晒して歩く気か」
影山の言葉にまた頬が熱くなる。
渡されたタオルを顔に押し付けると、自分じゃない人の匂いがして、なんだかむずむずした。
街路樹から注ぐ木漏れ日と蝉時雨の中歩く2人。
駆け足になる心臓と上がるばっかりの気温も、なぜだか心地よく思えた。
END