第1章 猫よりももっとずっと
俺がこんな笑顔を見せる時には何かがあると。
だからだろうか?
分からないという様子ながらも、僅かに身構える。
「もっと、可愛く鳴けますよね?」
再び悪戯に微笑み、そう言った俺は、そのまま彼女の唇へと自らのそれを近づけて、彼女の唇の端を舐める。
「ひゃっ!」
驚いたような声を上げた彼女は、けど俺の意図する所が理解出来たのか、途端に頬を赤く染めた。
そうしていつもの困ったような顔を見せる。
例えば誰かがあなたを困らせるのなんて許せない。
けど、俺はあなたの困った顔が好きで。
それを見たくていじめたくなる。
そう、これは俺だけの特権。
他の誰にも譲らない。
だから彼女を押し倒した。
畳の上へと。
「えっ、あっ…あの、沖田さん」
驚いている彼女に構うことなく、その首筋へと口付ける。
襟元を肌蹴させて、そこから手を差し入れ、
「ねぇ、さん、可愛いく鳴けますよね?」
そう問いかけながら胸に触れる。
あの猫が何の為に、誰の為に鳴いているのかは分からない。
けど、さん。
あなたは俺の為だけに鳴けますよね?
「…っ、あーっ」
甘く漏れるその声に、鼓動が高鳴る。
ほら、猫なんかより、ずっとあなたの方が可愛く鳴けるじゃないですか。
だからもっと聞かせて下さい。
「ねぇ、もっと大きな声で鳴けますよね?」
耳元に囁き、甘く噛みながら、右手を着物の合わせから忍ばせて、太腿を撫でる。
「あぁんっ、沖田さんっ!」
一層甘く聞こえる鳴き声に、思わず微笑んでしまう。
切なげに歪むその表情も。
俺の指に応えるように上がる体温も。
甘く鳴くその声も。