第1章 猫よりももっとずっと
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「あんな可愛い猫が来てるんですね?」
剣の手入れをしていると、廊下からさんの声が聞こえた。
どうやら山崎に案内されて、こちらに向かっている様子。
俺に会いに来たのだから、呼んで貰えれば迎えに行ったのに。
迎えに行こうと行くまいと、彼女はここにやって来る。
結果には何ら変わりはないのに。
どうしてそんな事を考えてしまったのだろう?と、一人首を傾げて居た。
彼女は変な人だから。
見ていて飽きない面白い人だから。
そんな彼女と共にあるうちに、俺までおかしくなってしまったのかも知れない。
「沖田、さんを案内した」
襖越しに聞こえる山崎の声に、
「どうぞ」
と、応えた俺は、さっきまで考え事で止まっていた手を慌てて動かした。
別に待って居た訳じゃない。
あなたを気にしていた訳じゃない。
ただ剣の手入れをしていたんだと、まるで言い訳でもするみたいに。
「沖田さん、屯所に可愛い猫がいるんですよ」
入ってくるなり猫の話。
そう言えば彼女は、餅助の事も可愛がっていたっけ。
俺に似ていると言われるうさぎの餅助。
よく屯所にやってきては、みんなが『沖田さん』と呼ぶうさぎ。
犬や猫じゃないから、そんなに懐かないのは当然なのだろうが、そのうさぎはいつも近藤さんに噛み付いていた。
『近藤さんがまた沖田さんに噛まれた』
そんな風に毎度みんなが騒ぐものだから、彼女は本当に俺が近藤さんを噛んだと誤解して、ひどく驚いてた事もあった。
「へぇ…。そう言えば、みんなが騒いで居ました」
興味なさげに返す言葉。
確かに騒いでるみんな程興味はないかも知れない。