第9章 あなたの分まで
次の日、オレ達は朝から
街を歩いていた。
「そこの黒服さん!
お花はいかが?」
明るい笑顔の少女が
花束を差し出してきた。
ー ...こいつはアクマか?それとも人間か?
警戒しつつ、笑みを浮かべる。
「ありがとさー」
花束を受け取り、
コインを一枚手渡してやると、
少女はすぐに他の人のところへ
行ってしまった。
ー アクマじゃなかったか.......。
少女の背中を見送って、
受け取った花束を見た。
白い、花束だ。
ー これは.......胡蝶蘭(コチョウラン)か。
ふと、オレは視線を感じて
顔をあげた。
路地の隅に7歳くらいの幼女がいて、
オレのことをじぃっと見つめている。
オレはすぐ近くの店に入ると、
肉がたっぷり入ったパイを2つ買って
幼女に近付いた。
貧しいのだろう。
ボロボロの服を着た幼女の
目は、パイに釘付けになっている。
あと5歩程度になったとき、
誰かが幼女に駆け寄ってきた。
一瞬、幼い頃のリランかと思った。
年は10歳くらいだろうか。
長い茶髪を背中に流した少女が
キッとオレを睨みあげる。
その目は、明らかにオレを警戒していた。
オレは構わず、小さい幼女の前に
しゃがみこんだ。
「ほら、これあげるさ。
腹減ってんだろ?」
幼女は目の前のパイとオレの顔を
見比べ、そろそろと手を伸ばした。
パイをすっと手に取り、
匂いをかぐなりかぶり付く。
もう1つを、姉らしき少女に差し出す。
少女は、まだオレを警戒していたけれど、
美味しそうにパイを頬張る
妹を見て、同じようにかぶり付いた。
オレは、笑みを浮かべると、
立ち上がって少女達に背を向けた。
「あのっ!!」
声に振り返る。
「ありがとう」
姉の方が礼を言う。
オレはまたしゃがみこむと、
さっきの花束を少女の耳元に飾った。
「この花、胡蝶蘭ていうんさ。
花言葉は『幸福が飛んでくる』。
幸せになれるといいな」
2人の頭をグシャッと撫で、
神田達のもとへ戻る。
そのラビの背中を、少女は
ずっと目で追いかけていた。