第9章 あなたの分まで
コートを着て、荷物を持つ。
途中でリランに会い、一緒に
いつもの船着き場へ行くと、
白いコートを着たファインダーらしき
若い男がいた。
茶髪の優男で、初めて見る顔だ。
「こんにちは、リランさん
ラビさん、神田さん。
僕はファインダーのカジムです。
よろしくお願いします。」
軽く頭を下げて手を差し出してきた。
オレはそれに応じて挨拶を返した。
「よろしくさー、カジム!」
カジムはオレの陽気な言葉に
少しだけ笑った。
ー ちょっと女っぽいヤツさ.......。
と思う。
「よろしくね」
リランも笑顔で返したが、
神田はきれいに無視して
船縁に足をかけ、乗り込んだ。
カジムは神田に怯えたような、
嫌悪のような目を向けた。
ー ま、ユウと組んで喜ぶヤツは
あんまいないさ~...。
教団一の短気で冷血な男だ。
でも、オレは無愛想なこいつを
嫌いではない。
さりげなくフォローする。
「無愛想だけど、ホントは良いヤツなんさ。
あんま気にすんなさ」
「...いえ、気にしてないので大丈夫です」
明らかに神田を敵視してはいるが、
表立って揉めるつもりは無いようだ。
カジムに続いて船に乗り込もうとしたとき、
後ろから声が響いた。
「ラビ!神田!リラン!」
バッと振り返ると、リナリーだった。
黒いスカートをひらめかせて
階段を駆け降りてくる。
驚いているオレ達の目の前に
ふわりと着地する。
かなり走ってきたのか、
荒い息をつきながらニッコリ笑った。
「いってらっしゃい!!」
オレはリナリーに笑い返す。
「...ああ、行ってくるさー!」
「行ってきます、リナリー!」
リランは返事をしない神田を
突っついた。
「神田!」
めんどくさそうに神田が振り返る。
リナリーはまた満面の笑みを浮かべ、
「いってらっしゃい」
と言った。
神田はため息をつきたそうな顔で
「...ああ」
とだけ言った。
その神田に驚いた顔を向けたカジムにも
リナリーは笑顔を向ける。
「あなたも、いってらっしゃい」
さらに驚いた顔をしたカジムが
リナリーを見、微笑んだ。
「はい、行ってきます。」
見送るリナリーを尻目に、
船はゆっくりとこぎだしていった。