第23章 この想いをあなたに
今すぐにリランを抱き締めたかった。
でも、甦るのはブックマンの声。
「一度、教団を離れた方が良いかもしれぬな」
それだけは嫌だ。
いつか離れるとしても、この少女だけは
手放したくない。
― ...手放したくないなんて、傲慢さ。
オレといるかはリランが選ぶべきさ。
オレは、静かにリランに問うた。
「もしオレが教団を出るって言ったらどうする?
オレと来る?それとも教団に残る?」
ぽかん、としたリランは眉をひそめた。
「教団に残ってもいいさ。
そうすりゃ教団が勝てるかもしんねーし」
ふっと笑ってみせる。
「歌姫の力を持ってるリランは
伯爵に狙われてる。
リランが教団を出れば、
確実にノアの手に落ちる。
オレだけじゃリランを
守る力はねぇさ。
捕まればもう逃げ出せねぇから、
教団は負けるだろうな」
リランに背を向け、言葉を続けた。
「それでもオレを選ぶ?
リランの気持ちはどれくらい本気?」
「それは.......」
「リランは教団を選ぶべきさ。
リランのことは好きだ。
でもオレはブックマンの後継者、
リランを選ぶことは絶対ない。
...頼むから、これ以上オレに干渉しないでくれ」
リランは、もう呼び止めなかった。
去るオレの背中に、声が掛けられる。
「そんなの...」
続いた言葉は「選べるわけない」、か
それとも「ずるい」、か。
意識を逸らしたオレの耳に、
届くことはなかった。
― ずるいなんてこと、分かってる。
選択のしようがねぇんだから。
でも、オレを選ばないでほしい。
ただ............................
他の男も、選んで欲しくない。
矛盾した思いは、苦い後味だけを残して消えた。