第19章 過去のトラウマ
「あのね、私、小さい頃から
誰かに必要とされたことが無かったの。
必要としたことはあるけど、
されたことは無い。
過去を振り返っても、
私がいなくてもリーレノは特に変わりはないし、
ネイに至っては私が殺したようなものだから。
どこへ行こうと、私の居場所は無かった」
何かを言いかけたラビを制し、
心を落ち着けるために目を閉じる。
「結局、世界は私がいなくても
廻るんだろうなって思った。
死んでも生きてても、
世界に『私』は必要ない。
唯一求められたのは、体であって
『私』じゃない。
そう思ったら、世界が白黒になっちゃった」
目を開く。
私が思い描く世界に、
カラフルな色彩は無かった。
白黒の濃淡のみで描かれる水墨画。
それが私の世界だった。
「でも、師匠と出会って、それが変わった」
最初に、青と緑が加わった。
茶色が加わった。
でも、一番印象に残ったのは、
燃えるような赤。
師匠の髪。血の色。熱い。怒り。
初めて『激怒』することを知ったときから、
私の赤のイメージは『怒り』だ。
「アレン、リナリーと会った時は、
味気ない白黒じゃなくて、
表情のある白黒を知った」
漆黒は、『恐怖』。
でも暗闇は、何故か『安心』だった。
これは、教団を意味している。
夜空は『希望』。リナリーの髪の色。
明日へ続く、希望の色。
白すぎる白は『狂気』。
純白は人を狂わせるから。
優しい白は、『アレン』だ。
「そして、ラビ。ラビは、私に
オレンジと黄色を教えてくれた。
哀しい緑も教えてくれた」
オレンジは『太陽』。ラビの色。
周囲を明るく照らす、強い光。
黄色は『月』または『喜び』。
私を家族と言ってくれた、優しい光。
哀しい緑は『切ない』。ラビの瞳。
子供を救えなかった、ラビの気持ち。
綺麗な翡翠の瞳は、暗緑色に染まってた。
「強い光は、同時に強い闇を生む。
ラビは『光』のはずなのに、
何故か『闇』を持ってるよね。
そういう二面性が、私は少し怖いよ」
全ては色だ。
私の世界に『モノ』は無い。
― 世界の定義なんて、あやふやだよね...
ん?
私は一体、何を話しているの?
私は一体、何の為に戦っているの?