第18章 歌姫
リンクが敬礼したのは、
オールバックの長身な男性だ。
鋭い目は蛇のように光っている。
その目で見られた私は、
あまりに冷たい光に
背筋が寒くなった。
「あ.......」
部屋の空気がざわりと動く。
怯える私の手を、
アレンがぎゅっと包み込んだ。
「彼女はその謎を解く手がかりだ。
体、性格、思考回路、行動パターン。
リランという人間を調べ尽くす。
例えば治癒力が高いと言ったね?
普通の人間よりどれほど早いのか、
とりあえず深めに体を傷付け」
「やめてください」
ぺらぺら語るルベリエを、
堪えかねたコムイが止めた。
長官の視線から私を隠すように、
ラビが私の目の前に立つ。
ふと見れば、リナリーが
コムイの背中に隠れていた。
― あのリナリーが、怖がってるの...??
ラビに至っては、敵意に近い視線を
ルベリエに向けている。
部屋の空気がはりつめた。
「そう警戒しなくてもいい。
ケーキは好きかね?
ガトーショコラを持ってきたのだが」
しかし、その空気をぶち壊したのは、
他ならぬルベリエだった。
手に持った白い箱を顔の近くで
軽く振ってみせる。
「結構です。
リランは病人ですし、
僕らの話は終わったので
これで失礼します」
アレンが「病人」をことさら強調して言い、
私の手を引っ張って立ち上がった。
「え、え?」
― アレンが食べ物に釣られないなんて....
どういうこと?
私は状況が理解出来ないまま、
アレンとリナリーに手を引かれ、
ラビと神田と共に司令室を出た。
早足で談話室に向かう。
談話室に、人の姿は無かった。
ソファーに座り込むと、
誰からともなくため息が出る。
「は~...何か疲れた...。
あの人、誰?」
「...中央庁の長官サマさ」
気まずそうに視線を逸らした
リナリーに代わって、ラビが答えた。
「偉い人?」
「コムイさんより上かもしれないね」
と、今度はアレン。
「...そういえば、神田は?」
「多分、修練場だと思うわ」
「そう.......」
脱力。
精神が一気にやられた気分だ。