第6章 その6.深入りしてはいけません
プルルルルと、大野さんの携帯がなった。
ポケットから携帯を取り出す大野さんの顔がまた変わる。画面を少し見つめた後、通話ボタンを押した。
「はい、」
何となく声の感じでわかってしまった。
「…え?来てんの?…どこ。」
また大野さんの顔が曇る。すると遠くの方で女の人が大野さんを親しく呼ぶ声が聞こえた。
「智!」
声のした方を見ると、大野さんに大きく腕を振る女性の姿。
「ゆず、」
大野さんが駆け寄ると、私は一人ポツンと取り残された。
わかってるんだけどなあ。
「なんで、来たの。」
「ごめんなさい、待ちきれなくて。」
素直な可愛らしいことを言うこの人が、柚希さん。
ふんわりボブが似合う、モデルのようにスラッとした可愛らしい女性。一人だけ違うオーラを発していて、周りを通りすぎていく人達が必ずと言っていいほど振り返っている。