第6章 その6.深入りしてはいけません
そう言って私を優しく覗き込む大野さんの右手に持ったジャムぱんは、一口もかじられてなくって。
「食べてない。」
不思議な光景に頭が追い付かなくて、ジャムぱんをジッと見つめて独り言を言ってしまった。
…元気が出たのはジャムぱんのおかげではなく、私のおかげってことですか?なんて考える私の頭は、最高にプラス思考で出来てるみたいだ。
「ああ、食べる?」
そう言うことじゃ、ないんだけどなあ、と笑いが出る。
「はい、おすそ分け。」
「…ありがとう、ございます。」
お弁当、食べたんだけど、と思いながらも、大野さんから貰った半分のジャムぱんは、元気の出る味ではなく、優しくて幸せになる味がした。