第6章 その6.深入りしてはいけません
「…大野さん、いつも私の話聞いてくれるじゃないですか。」
「そう、だっけ?」
「はい、ちゃんと聞いてくれます。疲れてても。」
「へえ。」
「…私、下手くそかもしれないんですけど、聞きます。ちゃんと黙って聞くだけ出来ます。」
「うん?」
「…だから小さなことでも、タンポポ咲いてたとか、犬欲しいとか。何かあったら、言って下さい。
あ、の、話かけなくていいんです。私のこと、ぬいぐるみくらいに思ってくだされば、ただ聞くだけなら出来ますから!」
「……俺、タンポポとか犬とか言わないけど。」
「な、なんていうか、物の例えです。」
「…、俺のぬいぐるみになるの?」
「あ、いや…それも物の例えというか、」
「じゃあ、何になってくれんの。」
大切な人になりたいです。
なんて言えない。
たぶん難しそうな顔をしていたんだと思う、私を見た大野さんが、虐めてごめん、と言った。
「大野さん、…どうでもいいことって誰かに話すと意外とスッキリするんです。」
「…へえ、知らなかった」と大野さんがまたボソっと呟いた。その横顔が綺麗でなんだかまた切なくなった。
こんなことで大野さんが元気になるとは思わないけど、せめて一人で悲しい目をさせたくない。