第5章 その5.毎度傷ついてはいけません
さっきのベンチ。
もういないかもしれない、そう思いながらこの場所を目指して走ってきた。
目的の場所が見えると、そこにはまだ見覚えのある後ろ姿があり、私の足音のリズムが変わる。息を整えるためにゆっくりベンチに近付いた。
「……お、おのさん、」
後ろから名前を呼んでも振り向く様子もなく、ましてや動く様子すらない。不思議に思って、少しずつ大野さんの視界に入るように左側からベンチを覗いた。
「…………zzz」
ゆったりと背もたれに腰をかけ、両足を前に伸ばし、顔は左に少し傾いている大野さんは完全にお休み中。
「…よく寝れるなあ、そんな格好で。」
体勢は凄くキツそうなのに、綺麗な顔して目を閉じる大野さん。無理やり起こすわけにもいかず、空いている右側に腰をおろす。