第5章 その5.毎度傷ついてはいけません
聞かなきゃ、聞いていいって、何でも聞いてって、大野さん言ってくれた。
気になって気になって気になって、なりふり構わず走っていたら声を掛けられた。
「あれ、じゃん。」
教室の前で女の人と立ち話していた二宮先輩が、私を止める。
「…っ、先、輩っ…」
息が上がって上手く話せない。
「なに、そんなに慌てて、どうしたの。」
呼吸の乱れる私に驚いた顔をする先輩。今日も隣にいる人は美人な方だ。「五花さん」ではなかったが。
「せ、先輩、あのっ、大野さんのっ…」
言いかけた言葉を手で押さえる。
ゆずさんって誰ですか、
そう聞こうとしたはずなのに、
あの日の大野さんを思い出す。
『 聞きたいことは全部、俺に聞いて。』
『わかった?』
『返事。』