第5章 その5.毎度傷ついてはいけません
前まではオーラを消すのが上手な大野さんをスルーすることもしばしばあったけど、今や私の大野さんレーダーは最強だ。
有稀と一緒に後ろから近付いて驚かそうとしたけど、側にいくと大野さんの耳元に携帯があることに気付いた。
…うん、うんと電話の相手に相槌を打つ大野さんの声はいつもよりも優しい、ゆっくりしたものだった。
私は邪魔をしないように電話が終わるのを待つ。
「…うん、だから違うよ、うん、行くから。今から?無理だって、授業あるし。…帰り寄るから、待ってて。」
聞く気は無かったけど…聞こえてしまった。私はこの内容でなんとなく相手を予想出来た。…勘違いだったらいいのに。そう思ったけど、私の勘は当たったようだ。
「あ、待て、ゆず。」
「ゆず」それは間違いなく女性の名前。
大野さんのその優しい声のわけも納得した。
「ゆず」さんが大野さんの大切な人、ですか。
「ゆず」さんが大野さんのいつも想うお空の人、ですか。