第1章 その1.目で追いかけてはいけません
はい、これで全部、とパンを全て私に渡し
「これで買っておいで。」
と財布から千円札を何枚か私に渡そうとする。両手の塞がる私に「あ、そうか」と笑った顔が、漫画から飛び出してきた王子様の様で。
たぶん先輩なんだろうな、と思った。なんていうか・・・対応が私の知っている高校時代の男子とは違う。
「ねえ、大野さん、ちょっと手伝って。」
そう言って後ろにいる人に声をかけた。
驚いた、他にも人いたんだ。
後ろから出てきたその人の顔を見てまた驚いた。
茶色の襟足のない短い髪、鼻筋の通った横顔、凄く綺麗な顔をしているのに、なんだか凄く眠そう。
「ん、今忙しい。」
何もしているはずがないのに、
バレバレの嘘をつくその人に
「どこがよ。ほら、早く。」
と笑うやりとりが、それだけで格好良く見えた。