第1章 その1.目で追いかけてはいけません
「あ、ごめん、大丈夫?」
後ろから声をかけられたが、私の頭の中は、その人の優しさなんて届かないくらい慌ただしかった。
大丈夫なわけはない!私の大切なパンが!パンたちが!
いてもたってもいられなくなって、
振り向きざまに心の中の声をそのまま出してしまう。
「全然大丈夫じゃ…」
ぶつかってきたその人に、文句を言ってやろうと振り向くと、すごく近くに私の顔を覗き込む男の人が立っていた。
「大丈夫じゃ…?」
私の言いかけた言葉を同じように言うその人は、子犬のように首をかしげる。
「………、」
「だいじょうぶ?」
「……大丈夫、です。」
文句を言うはずだったのに、あまりにも素敵なその人に驚いて何も言えなくなってしまった。
「あらら、これ全部君の?」
下に散らばったパンの袋を一つずつ拾いながら、上目遣いで私を見る。
床を見ると、10個以上はある散らばったパンたち。
ダメだ、これを全部食べる女子だなんて…なんかもう終わってる。
「…ご、5個だけです。」
嘘をついて少な目に言ったのに
「十分、食い過ぎでしょ。」
と、少し呆れたような優しい声で笑われた。
この少女漫画のようなシチュエーションに心臓の動きが速さを増す。最高な出逢いなのに、最悪な状況で恥ずかしい。