第12章 その12.後ろ向きはいけません
「大野さん!」
大野さんがいつも寝ているベンチ。
確信はなかったけれど、
やっぱり今日もそこにいた。
「…、どうしたの」
息を切らす私に驚く大野さん。
「あ、いや、あの、
少しだけ、お話してもいいですか?」
大野さんが私の問いに「どうぞ」と隣に案内するかのように手を出す。
「…私、やっぱり、
放っておくなんて出来ないんです」
大野さんの表情を確認する。
何も変わらない、いつもの「無」の顔で
何も読み取れない。
「迷惑、かけて、すみません…
大野さんが何かに悩んでる、
それに気付いてから、
どうにかしたくて、
でもそれは大野さんのためじゃなくて、
結局全部…自分のため、で」
「………」
黙って大野さんが聞いてくれる。
私の目を見たまま、
真っ直ぐに視線を外さない。
「…大野さんに振り向いて欲しくて、
こっちを見て欲しくて、
無理矢理にでも関わりたくて…
だからそんな純粋な気持ちじゃなくて、
私、ズルいんです。」
「………」
「大野さん、お願いがあって来ました。」
「…なに?」
「私、バカだから
あんな風に言われても
まだダメなんです。
ハッキリ言ってもらわなきゃ、
ダメなんです。
私を、迷惑だと
振ってもらえませんか」
大野さんの表情はいつものままで、
「…俺は」と口を開いたその時だった。
「智!」