第9章 その9.自分だけ、ではいけません
「……うん、」
「ゆずに会いに?」
「うん、」
「俺じゃなくて、ゆずに会いに来たんだ。」
智が優しい顔をして目の前にいる。
「……あ、そぼうって、…」
「それはゆずだけに、会いに来たんだね。」
智は何が言いたいんだろう。
「………、」
「ゆず、
ってウザくない?」
笑いながら初めて聞く、
智からのそんな言葉。
「………すっごく、ウザい。」
私の言葉にまたふふふ、と笑う。
「…うん、そうなの。
凄くウザいし、凄くしつこいし、
何より凄く手がかかる。」
もはや悪口にしか聞こえない言葉なのに、智は目の前にあるクリームパンを優しい、大人の目をして見つめる。
「……わかる、気する。」
「ふふ、ゆず、大変なのに捕まったね。」
ちゃんがくれたクリームパンを切なそうに見つめる智の横顔。
これ、俺、食っていい?そう聞かれて、ただ黙って頷いた。
「…うめえな、」と呟くように言う智に
もうちゃんの顔しか
思い浮かばない。
気づいてほしくなかったんじゃない、
私が気付きたくなかったのは
自分の気持ち。