第9章 その9.自分だけ、ではいけません
「…智、」
「あれまあ、今日もゼロ?」
ふふふ、と智が笑う。
「今日、智の日じゃないよ?」
「うん、これ買ってきたからゆずにあげようと思って。」
智が茶色の紙袋を私に渡して、よいしょ、とカウンターに座る。
「…いい匂い、」
「うん、それ俺の好きなやつ。元気でるよ。」
元気がでる?智には、私が元気ないように映ってるの?
袋を開けると、焼きたてのパンの香りがして。
「クリームパン、うまいよ。」
と言う智と、袋の中身を見て、言葉が詰まる。
それはさっきちゃんが私にくれたそれと同じ。カウンターに雑に置かれたそれと同じ。
「……2時間、並んだの?」
「なあんだ、知ってんだ。」
ちぇっ、と拗ねたような顔をした智。
その視線がちゃんから貰ったそれの近くで。
お願い
気付かないで
それに
気付かないで
誰から貰ったかなんて
気付かないで
ちゃんが来たことに
気付かないで
気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで気付かないで
「……ゆず、これ。」
気付かないで、その気持ち
「…、来たの?」