第8章 その8.落ち込むだけではいけません
大野さんが入れてくれたホットミルクを両手で持ち、湯気のたつソレに何度も息をかける。その行為で一生懸命になっていると、大野さんがゆっくり話始めた。
「ここの店やってた人、柚希のじいちゃんが亡くなったって言ったでしょ。」
だから今はお店を見る人がいなくて、大野さんが手伝っている、というのは聞いた。
「はい、」
私はミルクの入ったマグカップをカウンターに置き、背筋を伸ばす。大野さんがいつもの眠たそうな顔ではなく、少し真剣な目をしていたから。
大野さんと目が合うと、一瞬だけ眉を歪ませて、口を開く。
「柚希のじいちゃんが亡くなったのは、
俺のせい。」
それだけ言うとまた目を伏せて珈琲豆を引き始める。
いつも私に向けていたあの時々見せる辛そうな目の理由が、そこに見つかりそうな気がした。