第7章 その7.鵜呑みにしてはいけません
学生の私には、なんだか気の引けるような大人な雰囲気漂うそのお店に、先輩は何の気なしに入っていく。先輩の後ろを黙ってついていく。
扉を開けるとカランカランと、鈴の音が出迎え、外よりもさらにコーヒーのいい香りがした。
そのお店はカウンターと二人がけのテーブルが3つ。窓から入る木漏れ日がまた雰囲気を作り出す。
お店にはお客がおらず、唯一、カウンターに立つその人がお客の私達に声をかける。
「…いらっしゃ、…」
いらっしゃい、そう言おうとしたカウンター越しのその人の姿にビックリした。
二宮先輩は右手をあげて高い声でからかうように声を出す。
「やっほー、大野さん、遊びにきたよ。」
「……」
ため息を吐いてカウンターに立つのは紛れもなく私の思う人。濃い茶色のシャツに黒の長いエプロン。いつもとは違う雰囲気に大人っぽさを感じて私の中の臓器どもが暴れ始める。
かっ、格好良すぎて…、吐きそう。
私が何も喋れないでいると
「、なんか久しぶりに見れた。」
といつもの大野さんがそこにいて。
「…その言葉、そのままお返しします。」
久しぶりに見たらやっぱり大好きで、
正直この気持ち、困ります。
「うん、そっか。」
大野さんとかわす、この何気ない、何の意味もない会話が大好きだ。
「私ちゃんと、沢山美味しそうなパン、リサーチしましたよ。」
「まじで。一緒に食べてえな。」
「…えっ、」
大野さんの久しぶりなその思わせ振りな言葉に戸惑ってしまう。1ヶ月会わないと、やっぱり免疫が弱っているみたいです。なんでも都合のいいように考えてしまいます。