第2章 日向翔陽 グッバイ•アイザック
ボールに引力でもあるんだろうか。
……違う。彼自身が、強く高く"飛ぶ"から、ボールを求めるから、あんなにもすんなりと手に吸い込まれるのだ。
体育館の床に打ち付けられたボールに、観客が視線を奪われている。そこから視線は、背の低い彼に集まる。
驚いたことだろう。誰よりも疾(はや)かった。誰よりも高く跳んだ。それこそ"飛んだ"と言えるほど。
実は引力を持っているのは、日向かもしれなかった。
「……っしゃあ‼︎」
喜びをその小さな体で目一杯表現する。ネットよりもずっとずっと高く、舞い上がる。ボールが上がるならどこまでも。
誇り高いその姿に、やっぱり彼は惹きつける側だと、そう思った。
「緋紗ー?何やってんの、もう行かなきゃ」
「……うん。わかってる」
イヤホンを耳にはめる。日向の試合を見るようになってから、聴くのはいつも、この曲だ。