第4章 夜若との遭遇
呻く不気味なお婆さんの後ろに佇んで居たのは、長い銀の髪を靡かせた青年だった。
藍色の着物に深い青の羽織を羽織って居る。
そして右肩に抜身の刃を置いていた。
しかし、何故か眼が紅く光っていた。人間じゃない事が一目で判る。
って、この宙に浮いた髪。妖怪に変身した『ぬらりひょんの孫』の主人公?
どうして、こんな所にいるんだろう…?
目を丸くしていると、不気味なお婆さんがギョロッとした目を上げ、後ろを振り向く。
そして後ろで纏めた髪が解けて行った。
ウネウネと細い白髪が空中を踊る。
と、「ぐがーっ」という奇声を上げ、妖怪の夜リクオ君に襲いかかって行った。
「あぁああしいぃいいいっ!」
夜リクオ君は、不気味なお婆さんの方に向かって行くと、すれ違いざまに長刀を斜め方向へ一振りする。
すると、そのお婆さんの身体に斜めの線が入ると共に、ブシュッと黒い霧のようなものが斬られた場所から噴き出した。
そしてそのまま身体の形が崩れ、消え去る。
私は力が抜けて、その場にヘタり込んでしまった。
こんなに足に力が入らない事って初めてだ。
まだ心臓がバクバクしている。
夜リクオ君は、私を見下ろすと静かに口を開いた。
「大丈夫かい?」
その切れ長な紅い眼は怖さを覚える。
だが、夜リクオ君はこちらの心情に構わず、何故か面白そうに薄い唇を持ち上げ、言葉を続けた。
「有永サン。いつまでも地面に座ってると尻冷やすぜ?」
自分の名字を呼ばれ、心臓がドクンッと跳ねる。
さっき吃驚した時のとは違う。なんて言うんだろう。恥ずかしさみたいな感情が混ざった感じ?
これ、なんだろう?
自分の不可解な感情の動きに首を傾げていると、頭上からけたたましい声が降って来た。
「若ぁーっ! 御無事で――っ!」
頭上を見上げると、平安時代の貴族が乗るような牛車が浮いていた。その前面には巨大な夜叉のような顔。
そして、横の御簾から小さな黒い鳥のようなものが飛び出すと、こちらに向かって急降下して来た。
それは、夜リクオ君の顔の前に止まると、ホッとし、次にクワッとお説教を始めた。