第4章 夜若との遭遇
夜道を街灯が照らしている。その中を私は我が家へ向かってテクテクと歩いていた。
肩甲骨まで伸ばしたストレートの黒髪が風を受けてサラリと靡く。
頬にかかった数本の髪の毛をどけながら、私は重い溜息をついた。
怒られるよねー。
いや、暗くなったの気付かずに、いつまでもファーストフードで皆とおしゃべりしてたのが悪いんだけど。
私はもう一度、はああ、と溜息をつく。
今日はお父さん味方になってくれないよね。自業自得だから…。
いや、でも、前世、本大好きッ子だった私に萌えの話題を振られたら、語らねばいけないでしょう!
長時間話しをしてしまったけど、その内容に悔いなしっ!
カナちゃんは、何の事か判らず、キョトンとしてたけど!
私は歩きながら、片手をぐっと握り締めた。
と、電灯の下にあるゴミ置き場に、黒い物体が置かれていた。
人間が蹲っているようにも見える。
何だろう?
と思いつつ、歩きながらもそれを見ていると、それはもぞもぞと動き始めた。
驚きで一瞬心臓が飛び跳ねてしまったが、動きはすぐに止んだ。まるで何事もなかったかのように。
もしかして、野良猫が潜り込んでた?
黒い物体から2メートル程離れた地点で、足を止め、じっと目を凝らして見るが、何も異変は無い。
野良猫どっか行った?
それとも、見間違いだった?
訝しげに思いつつも、私は再び歩きだした。
無事に黒い物体の横を通り過ぎる。
ただの粗大ゴミだったようだ。
と、後ろから肩をぽんっと叩かれる。
誰だろう?と振り返ると、そこには着物にもんぺを履き、割烹着を纏った人の良さそうなお婆さんが立っていた。
背中にはカゴを背負っている。
お婆さんはニコッと笑うと口を開いた。
「足いるかい?」
あし?
意味が判らず首を傾げると、おばあさんはズイッと顔を近付けまた同じ言葉を繰り返した。
「足いるかい?」
もしかして、何かの『足』っていう意味?
例えば、豚とか鹿とか猪。
「いえ、いいです。遠慮します」
私は苦笑しながら、手を横に振った。
ナマモノ持って帰ったら、きっと怒られる。
と、お婆さんはスッと顔を俯かせた。そして右手をカゴの中に入れる。
スウッと取り出したのは、鉈、だった。
「それじゃあ、嬢ちゃんの足を貰おうかねぇ~」
え?
顔を上げたお婆さんは、ニタァと気味の悪い笑みを浮かべた。