第10章 期末テストなんてあるんだね
しばらく氷麗ちゃんと攻防を繰り返していると、ふいに閉じていた脱衣所のドアが、キィと小さな音を立てながら開かれた。
「2人して何をしておるのじゃ?」
呆れたようなお母さんの声に、氷麗ちゃんの抵抗がピタッと止む。
「リクオ様は!?」
「ボクならここに居るけど……」
お母さんの後にそっと顔を出すリクオ君。その頭は濡れていた。
全体的に濡れているから、きっと私と氷麗ちゃんが揉み合っている間に洗ったのだろう。
しかし、顔は何故かきまりが悪そうだ。
どうしたんだろ?
不思議に思っていると、氷麗ちゃんが私の脇をすり抜け、リクオ君に駆け寄った。
「若ー! 御無事で!」
「大袈裟だよ、氷麗」
「………、若、そのお姿は……?」
「ほほほ。詫びに舞香が着ぬ服を渡したのじゃ」
それは、お父さんが間違えて買って来た、たぬきのシャツだった。
たぬきの絵柄が付いているのではなく、着ぐるみっぽい感じの服だ。
カエルのパーカーがあるが、それのたぬきバージョン。
「若……(お似合いです!)」
「ハハハ……(普通の服が欲しいな)」
……。何か副音が聞こえるよ……。
私は思いっきり遠い目をしてしまった。
うん。似合う。似合うけど、他人の家の中で、仮装まがいの格好をするのは恥ずかしいよね。
リクオ君。うちのお母さんが本当にごめんなさい……。