第10章 期末テストなんてあるんだね
家に帰ると、お母さんは台所で夕飯の用意をしていた。
今日は焼き肉らしく、テーブルにはコンロと焼き肉プレートが置かれその横には、山のように積み上げた肉がお皿の上にあった。
キャベツやピーマンの野菜も申し訳程度に小皿の上へと盛られている。
うわぁ! あのぶ厚い霜降り牛肉! おいしそう!
口に入れたら、絶対蕩けるよね!
くうっ、涎出そう!
……、って、いけない、いけないっ!
お母さんに勉強会の事、言わなきゃっ!
私は、ダイニングテーブルに備え付けられた木製の椅子の背もたれ部分を握りしめながら、思い切ってお母さんに声を掛けた。
「お母さん!」
「おや? お帰り、舞香。今日は焼き肉じゃぞ。ちょっとしたツテで特上のものを貰えてのう。ホホ」
振り向き、艶然と微笑むお母さんは、思わず見とれる程綺麗だった。
って、しっかりしろ! 私!
ブブブンッと頭を振ると、私は本題を口に出した。
「あの、あの、ね。今度の日曜、皆で勉強会をする事になったの!」
「ほう、勉強会とな? 早く帰るなら別に行っても構わぬぞえ? 学生の本分は勉強と言うしのう」
「え、えっと、その、それが……この家で勉強会を開く事になったんだけど……」
うかつに自分の家ですればいいなんて言ってしまった、なんて口が裂けても言えない。
だが予想に反して、お母さんはコロコロ笑った。
「別に友達の2人や3人呼んでも構わぬ」
「ごめん。部活の皆を呼びたいんだけど……」
と、今度はあきれた顔をされた。
ごめんなさい。お母さん……
お母さんにそういう顔をさせたくは無かったんだけど、つい、口に出してしまったんです。
心の中で謝っていると、お母さんは不意に口を開いた。
「何人じゃ?」
「え?」
「だから何人じゃ?と聞いておろう。人数分茶を用意せねばなるまい」
「……、い。いいの!?」
「良いも悪いも、”する事になった”と言う事は、場所の提供を引き受けてしまったのであろう? ほんに、お人好じゃのう。我が君にソックリじゃ」
苦笑するお母さん。
「やった! お母さん、ありがとう!」
「しかしじゃ。この話しは我が君にもしっかりするのじゃぞ?」
「うん!」
良かったー! 怒られなくて!
お母さんの許可を得た私は、ホッと胸を撫ぜ降ろした。