第9章 覚醒
私は前を歩いている奴良リクオ君と氷麗ちゃんに視線を向けた。
氷麗ちゃんが凄見のある顔で奴良リクオ君に何かを言いながら迫っている。
うわ…、もっと胸が痛くなった……
やっぱり、これって奴良リクオ君の事、好き、って事なのかな?
でも、『ぬらりひょんの孫』の世界だからか、これまで原作通りの事柄が起きている。
言葉まで、デジャブを感じるものばかりだ。
と言う事は、きっとこの先奴良リクオ君は、必ず氷麗ちゃんを好きになる。
好きになっても……、絶対に、叶わない。
好きになって貰える可能性なんて皆無。
忘れる。
忘れた方がいい。
私は自分の胸元をぎゅっと掴むと、下唇を噛んだ。
と、前方から聞き慣れない青年の声が聞こえて来た。
「君が奴良リクオ君?」
「え?」
全員が奴良リクオ君に声を掛けて来た青年に注目する。
その青年は黒髪をきちんと撫ぜ付け白い夏の制服にネクタイを付けていた。
雰囲気からして高校生みたいだ。
「ねえ、舞香ちゃん。あの人、リクオ君の友達かしら?」
「んー? 友達だったら名前確認しないと思うよ?」
「そっか。うん、そうよね。だったら、誰…?」
「さあ…?」
カナちゃんと2人で青年を見ながら、小声で言葉を交わしているとその青年は突然奴良リクオ君の顎をクイッと持ちあげ、挑むように言葉を発した。
「僕たちは似ている。若さも、才能も、血も――」
「?」
そして唖然としている奴良リクオ君の顎をパッと離し、その青年は艶然と笑った。
「でもボクは君の上を行く。最初から全てを掴んでいる君よりもね」
「あの…?」
「判らないフリをするのかい? まあ、ボクはそれでもいいけど」
そう言いながらクルリと背を向け、手を振った。
「ボクもこの町でシノギをするから」
って、これ!
四国妖怪のボス、玉章が言う宣戦布告のセリフー!!
って、ことは、あの高校生が敵の玉章!
これから、あの玉章との戦いが始まるんだ…!
そう思うと同時に、何故か奴良リクオ君の為に何かしたいという思いが沸いて来る。
巻き込まれたくないと思っていたのに、好き、という想いを自覚すると、反対の考えが沸いて来る。
不思議……
でも私は何も出来ない。
力なんて無いから。