第8章 カナちゃんの誕生日
「あの、ありがとうございます! あ、あなた、もしかして……っ!」
「……」
夜リクオ君はまた無言でカナちゃんを一瞥すると、羽織から手を離させた。
そしてこちらに向かって歩き出そうとしたが、立ち上がり追いかけようとしたカナちゃんがバランスを崩して前のめりになる。
それに気付いた夜リクオ君は、カナちゃんの身体を腕一本で受けとめた。
「足くじいちまったのかい?」
「あ、はい……」
近くで聞こえる夜リクオ君の声にまた顔を赤くするカナちゃん。
その場面になんだか、胸の奥が少しモワモワした。
あれ? 何で不快な気持ちに?
はて?
疑問に思っていると、カナちゃんが肩に掛けている鞄の中から電子音がブルルルッと響いた。
カナちゃんは、夜リクオ君の腕に掴まりながら、鞄の中から清継君に貰った不気味な人形を出した。
そしてそれを耳に当てる。
すると、清継君の声が人形から聞こえて来た。
『家長さん、無事かい!?』
「うん。もう、全然大丈夫よ! えっと……、妖怪じゃなかったみたい。ごめんね」
カナちゃんは、夜リクオ君を見上げながら答えた。
多分、妖怪に襲われたのは、真実だと告げると夜リクオ君の迷惑になってしまうと思ったのだろうか?
うーん。確かに真実を告げたら、夜リクオ君大好き人間の清継君は、奇声を上げて猛ダッシュで駆けて来そうだ。
『そうなのかい? まあ、無事でなによりだよ。また何かあったら連絡をくれたまえ! マイファミリーの為なら苦労も惜しまないよ!』
「あ、はは。ありがと……」
カナちゃんは苦笑をしながら切れた通信人形を鞄に直し込んだ。
と、夜リクオ君が私の方を振り向く。
「有永サン。カナちゃんを送ってやってくんねぇか?」
そっか。妖怪は一緒に電車には乗れないよね。
お母さんには、カナちゃんを送って行くって連絡入れればいっか。
うん、と頷こうとすると、カナちゃんに待ったをかけられた。
「待って! 舞香ちゃん、遅くなると家の人から怒られるわ! だからっ……!」
カナちゃん?