第8章 カナちゃんの誕生日
何も変化のない日々の中、忘れかけていたが、ここは『ぬらりひょんの孫』の世界なのだ。
カナちゃんの誕生日と言ったら、雲外鏡事件の始まりだ。
横目でカナちゃんの顔を見ると、寝不足なのか少し隈が出来ているようにも見える。
原作と同じように悪夢を見ているのかもしれない。
眠れないのは、辛いことだ。
それなのに、今日一日我慢して授業を受けていたのだ。
私は心配に眉を寄せた。
「カナちゃん。大丈夫?」
「え?」
「いや、なんだか顔色悪いよ?」
「……、やっぱりそう見える?」
「うん」
カナちゃんは、肩掛け鞄に人形を直すと深い溜息をついた。
「ちょっと夢見が悪くて……」
やっぱり!
と、カナちゃんはスッと立ち上がると眉を下げ申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん。やっぱり体調が悪いから、先帰るね」
「あ、私、送ってく」
「ううん。舞香ちゃんは、ゆらちゃんからのレッスン続けて?」
「え、でも!」
「大丈夫! 一人で帰れるよ」
そう言うと、カナちゃんは手を振り、私の傍を離れて行った。
待って? 確か、雲外鏡事件って、カナちゃんが一人で帰ってると雲外鏡に出会って、追いかけられる話しだったような?
待って! と再び口を開こうとすると、清継君が話しを再開した。
「おや? 家長さんは帰ってしまったようだね。まあ、いい。それじゃあ、ボクが仕入れて来た都市伝説の話しをしよう!」
清継君の話しを無視して、カナちゃんが1人で帰るのを止めた方がいい?
それとも、このまま傍観を決め込んだ方がいい?
私は制服のポケットを握った。
ポケットの中にはいつ悪い妖怪に出会っても良いよう、数珠が入っている。
もちろん、ゴールデンウィーク後、再び購入したものだ。
これがあれば、妖怪なんて、怖く、ないっ!
でも、異形の妖怪に遭うのは、正直怖い。
どうしよう。
私は頭を抱えて葛藤をした。
でも、答えは出ない。
どうしよう、どうしようとぐるぐる考えていると、都市伝説の話しはいつの間にか終わり、カナちゃんに渡した人形の話しになっていた。
「ふふふ。実はただのブランド品じゃないんだよ」
清継君は得意げに、もう一体同じ容貌をした人形を鞄から取り出した。
「ここをこう押してだね……」
すると、人形から呼出音みたいな音がぷるるると響く。