第1章 ドクターストップ!
多分玲司が我が家に滞在した時間は20分ほど。短い。あまりにも短い。
自分から言った事なのに、帰られるのはあまりにも寂しい。
でもこれ以上迷惑をかけるわけにもいかないので、ここは心を鬼にしてお別れを告げる。
「帰ったらうがい手洗いをしっかりしてね。」
「うん。典子こそしっかり寝てね。」
「惰眠を貪るのは得意です。」
冗談を言えど離れるのが寂しくて、あたしの顔はしょんぼり度MAX。
玲司も察しているのか、さっきからあたしの頭を撫で続けている。
「典子が元気になったら好きなだけ一緒にいようね。」
「うん・・・。」
ギュッと抱きしめる。いつもより玲司のあたたかさを感じないのは、あたしの体温が高いから?
「ゆっくり休んで元気になって。」
「うん。」
優しい手が離れて、あぁ帰っちゃうんだなって悲しくなった。
「ねぇ。」
あたしの呼びかけで、玄関の取っ手に手をかけた玲司が振り返る。
「キスして。」
少し、当惑したように笑う玲司。
我侭ばっかり言ってごめん。でも寂しいの。
風邪を引いて弱気になってるだけなの。
そんな事を言おうとしたあたしの目の前で、玲司がマスクを外した。